け廻るにすぎませんでした。ああほんとうに、あの仮面を見ていると、頭の中が徐々《だんだん》と乱れてきて、不思議な幻影があちこち飛び廻るようになってしまいます。ですけど、どのみちこの運命悲劇を、自分の力でどうすることも出来ないとすれば、結局相手を殺すか、私が死ぬかの二つの道しかないわけでございます。でも、それには、ぜひにも理由を決定しなければなりません。ところが、それが出来ないのでございます。あの決定《けじめ》がつかないまでは、どうして、影のようなものに、刃《やいば》が立てられましょうか。そうしますと、一方ではあの執着が、私の手を遮ってしまうので、結局宿命の、行くがままに任せて――。死児を生み、半児の血塊《ちだま》を絶えず泣かしつづけて――。ああほんとうに、あの鬼猪殃々《おにやえもぐら》の原から、生温《なまぬる》い風が裾に入りますと、それが憶い出されて、慄然《ぞっ》とするような顫《ふる》えを覚えるのでございます。ねえ貴方、それを露西亜《ロシア》的宿命論というそうではございませんか。帝政露西亜の兵士達は、疲れ切ってしまうと、最後には雪の中に身を横たえてしまって、もう何事もうけつけず、反応もな
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