絶対に火山はない。あるいは、その底には奇怪な住民がいて……というのがますます奇想をつのらせる、「大地軸孔《カラ・ジルナガン》」の怪魔焔の謎。
「いずれは、僕より上等な探検家がでる[#「でる」は底本では「できる」]だろうからね。そのとき、その先生に『大地軸孔』を降りてもらう。下せど下せど綱は底触れず、頭上の裂罅も一線とほそまり――なんていうのが、地下鉄《チューブ》売りの赤本《ほん》にあるよ」
 最後に、折竹は淋《さび》しそうに笑い、その日の会見はそれまでになった。人々が去ったあとのがらんとしたなかで、暫く彼は物思いにふけっていた。やがて、ベルを押して部屋付女中を呼び、
「君、昨日あのザチという婦人は、来なかったかね」
「いらっしゃいませんわ。でも随分、あの方変った服装をしていらっしゃいますわね。|顔隠し《チャードル》をしたり皮鞋《サンダル》をはいたり……やはりあの方は近東の方でしょうね」
「そうらしい」
 と、折竹は憮然とうなずいた。彼にいま、そのザチという婦人が、頻々《ひんぴん》と訪れてくる。氏素姓も知れず国籍もわからぬが、姿顔といい気高さに充ち、どこか近付き難いところのある四十|恰好
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