《かっこう》の婦人だと――一度|顔隠し《チャードル》をのぞいた部屋付女中がいうのである。
もちろん、彼はその女には逢わない。こんな、近東人らしい婦人と接近などした日には、ますます彼の周囲には厳戒が加えられ、厭な日々が続かなくてはならないからだ。実際「大地軸孔」参加発表以来の英官辺の神経は、びりびり彼にも響いてくるほど、鋭いものになっている。第一、彼に接近するものは給仕人をはじめ、残らずそれを機会に変えられたような始末。そんな情勢のなかでその婦人と会ったなら、ますます此方のほうで事を構えるようなもんだと、――彼はザチという婦人を極力避けていたのだ。
すると、そのザチが痺《しび》れをきらしたように、つい二、三日まえ手紙を寄越したのである。それをみたとき、まるで悪夢裡のような言いようのない驚き、また同時に、もしもこれが芝居ならと思っても、奥底知れない怪婦人ザチの正体を、どうにも彼は見破ることができないのだ。さて、その手紙は次のようなものである。
魔境の土をまもるため、お願いがございます。どうか「大地軸孔」のしたの平和な民どもの、静かな生活をお乱しくださいませんように。私たちは、じぶん
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