が……。国際紛争裡におどる快男子[#「快男子」は底本では「怪男子」]折竹の姿は、まだ彼も言わず、作者も秘、秘である。ではこの、大地軸孔とはいかなる魔所であろうか。
北にパミール高原、西南にはヒンズークシ、南東にはカラコルム。おのおの、二万フィート級以上が立ちならぶ大連嶺が落ち合うところが、いわゆる「パミールの管」のアフガニスタン領である。ではここが、なぜ永いあいだ未踏のままであったかというに、それは、「大地軸孔」をかこむ“Kyam《キャム》”の隘路に、世界にただ一つの速流氷河があるからだ。温霧谷《キャム》の、魔境の守り、速流氷河《ギースバッハ・グレッチェル》。
グリーンランドの北端にあるアカデミー氷河群に、一日四十メートルをながれる韋駄天《いだてん》氷河があるけれど、これはおそらく、その速度の十倍以上であろう。囂々《ごうごう》とひびいて摩擦音を轟かせ、地獄の大釜がたぎるような氷擦の熱霧をあげながら、日速四百十九メートルといわれる化物氷河の谷。また、温霧谷という名のわけも、これでお分りだろうと思われる。
「つまりだね」
と、折竹が技術的な説明をはじめる。
「温霧谷《キャム》の、速流
前へ
次へ
全46ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング