あの、折竹がどうしたというのだろう。猪突《ちょとつ》六分、計画四分という、彼の信条はどこへ行ってしまったのか。と、過去の彼にくらべればあまりな変り方に、まったく、真実「大地軸孔」というところは、彼がいうように征服不可能なのかと、誰しもそう信じてしまったのである。
 しかし、ソ連、インドにはさまれた「大地軸孔」の位置。新疆《しんきょう》、パミールからかけて南下しようとするソ連勢力と、必死にインドをまもろうとするイギリスの防衛策。ちょうどその間へ自然の障壁のように「大地軸孔」をふくむアフガニスタン領が伸びている。してみると、いま独逸航空会社《ルフト・ハンザ》が純学術的探検の名目で、この秘境を暴露しようというのが、黙過されるだろうか。ソ連には、ここが明かになれば対印新攻撃路。おそらく天与の好機と、期待しているにちがいない。がそれに反してイギリス側には、この秘境暴露がひじょうな痛手になるのだ。
 インドへの道――その間に横たわる大秘密境「大地軸孔《カラ・ジルナガン》」。そうだ、きっと英官辺からの圧迫があったのだろう――と、折竹翻意の理由をこう睨みたい気持が、誰の胸にも疼《うず》いていたのである
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