うが、劇的でいいですよ。征服者折竹の風貌いよいよ颯爽《さっそう》となり……映画班も悦ぶし、われわれも助かる」
「ハッハッハッハ、人の苦しみを悦ぶのは、ジャーナリストくらいだろう。だが、季節風以外にも、風の問題はあるよ」
 と、きっぱり言われてもパミールの辺りで、風の問題といえば季節風以外にはない。はてなと、誰にも見当がつかないところへ、
「なんだ、諸君は分らんのかね」
 と、一わたり折竹がぐるぐるっと見廻して、
「風にもよりけりで、いろんな風があるが……、なかでも一番下らんやつに、臆病風というのがある。そいつが、『大地軸孔』だけはぜひお止めなさい。暗剣殺《あんけんさつ》と三りんぼう[#「りんぼう」に傍点]をゴッタにしたような、あすこへ行けばかならず命はない――と、僕に切実にいうもんだからね。こっちも、考えてみると成程そのとおり。よく、こんな計画でゆく気になったもんだと、再吟味の結果、慄《ぞ》っとなったほどだよ」
 最初はくだけた口調で冗談まじりだったのが、しだいに引き緊ってき、悲痛の色さえ帯びてくる。また聴くほうは聴くほうでガンと殴られたように、暫くのあいだなんの声もなかったのだ。
 
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