ころが、その二日後の夜。オーマンの都ムスカットで行われた王子ご新婚式に不思議な出来事が起ったのだ。
 稜※[#「山+曾」、第4水準2−8−63]《りょうそう》たる岩山のしたの町ムスカットのその夜は、イラン、エジプトご新婚の賓客《ひんきゃく》をそっくりひき受け、ヨーロッパ社交界に鳴る綺《きらび》やかな連中が、ふうふう暑熱にうだりながらオーマン湾を渡ってきたのだ。まず客人《まろうど》は、英皇太后メアリー陛下の御弟エースローン公、ドイツはモスクワ駐※[#「答+りっとう」、第4水準2−3−29]《ちゅうさつ》大使シュレンバーグ伯、またエジプトの女王ナズリ陛下、イタリアは皇甥スポレート侯爵。こうした方々が、白壁の小家が櫛比《しっぴ》するこの狭衝の町、また、イラクのバグダットと肩をならべる世界一暑い首府の――ムスカットを見ちがえるように飾ってしまったのである。
 その海岸の広場にある王宮といっても、簡易な三層の漆喰建《しっくいだて》であるが、ともあれ、オーマンを統《す》べる大元首のいますところ。花火、水晶の燭架《キャンドル》眼眩《まばゆ》いなかに、今宵の客人がいと静かに参上する。
「もう、おいでは
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