嘆符、1−8−77] うまくいい当てて覗き穴を発見し、俺を地下採油の超富豪にしてくれるか。まったく、あの沙漠だけは「英波石油《アングロ・ペルシャン》」も捨てている。そうだ、失敗《しくじ》りゃ、焼かれて死ぬ。馬鹿をみるのは、此奴だけの話だ。
 やがて、二人のあいだに盟約が成りたった。しかし、まだ折竹に完全な自由はない。
「あんたは、当分儂のそばを、離れんでもらいたい。明後日、わしはムスカットへゆく。例の、オーマン王子ご新婚でしてな。むろん、あんたへもご参列を願うが……。マア、誰しも珍客と思うじゃろう」
 それから、折竹は部屋を宛てがわれたが、その夜は眠れぬ一夜であった。月のない砂上は、ぼうっとした星明り。だが、彼はやっと助かったと、じつに躍るような気持。そのうち、彼が出方出まかせに述べたてた嘘が、どうやら真実らしく思われてきた。もともとこれは、彼の想像として腹にあったこと。ただ、大塩沙漠《ダシュト・イ・カヴィル》のあの熱気だけは、急場の凌《しの》ぎに絞りだしたのではあるが……。
 その、たんなる想像が本物になる。少くともなりそうだ、と考えた。すると、一度は死ぬんだったという捨身な気持が、
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