八〇くらいの、おそらく航空用燃料《ギャス》としたら空前のやつが、あの地下には無尽蔵にあるのです」
 見えない魔焔の正体が各国ともあせっている、高オクタン価の良質油とは。が、折竹の粟粒のような汗。ここが、助かるか助からないかの瀬戸際という意気が、目にも顔にも、燃えるように漲《みなぎ》っている。案の定、セルカークは恍《うっと》りとした声で、
「航空用良質油《ギャス》」
 とたった一言、それを、折竹が追っかけるように、
「そこで、あの沙漠に噴出孔があるか、ないか。たぶん、地軸までもというような、裂け目があるだろう。多量の天然ガスを絶えず噴きだしている、地底までの穴がきっとあるにちがいない。しかも、それが大盲谷へ達している。と、僕はこう睨《にら》んでいるのです。ねえ、地下からの採油も乙なもんですぜ」
「航空用良質油《ギャス》」
 とセルカークがふたたび呻いた。折竹がならべるでたらめもさすが彼だけに整然たるもの。それが駆りたてる夢幻黄金境。いまやセルカークは大欲にうめいている。
「儂もむかしは、汲出機《ギロウ・ウァーク》[#「汲出機」は底本では「汲山機」]をもって、掘りあるいたもんでした。そして
前へ 次へ
全46ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング