です。むろんそれは、土地によって高低がちがうでしょうが、岩塩と、石灰岩層を貫いて流れている。しかも、その大盲谷二万マイルのうえは豊潤な油層だ」

   招かれざる女王

 地下の大盲谷、暗黒の二万マイル。その存在は非常に古いころから、想像されもし書かれてもいるが、もしこれが余人の口からでたのだったら、即座に一蹴《いっしゅう》されたにちがいない。いまは、セルカークも妖《あや》かしに会ったような顔。
「なるほど、その想像洞のうえは、大沙漠帯ですね。それに、所々方々に油田が散らばっている」
「そうですよ。全部油脈は岩塩油田であるか、それでなければ、石灰岩層に入っています。おそらくその大盲谷はソ連領にも伸びているでしょう。ねえ、エンバの油井《ウエル》は岩塩油田でしょう。また、コーカサスのは石灰岩層にあります。とにかく、岩塩を溶かし、石灰岩を溶かし地下へ滴《したた》る石油が大盲谷をつくったといわれる」
 ああ、大盲谷をうねくる、石油の大暗流。いかな名画工、いかな名小説家といえど、その光景を髣髴《ほうふつ》とすることはできないだろう。しかしそれは、ただ想像だけとするならまことに素晴らしいがと……暫
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