なっている。しかし、もし貴方がゆけば、どうなるか分らない。ヒルト博士らのほかの人たちはとにかく、こっちは、貴方一人の超人力をおそれている。インドを、ソ連の南下策から完全に護らにゃならない」
「ふむ」
 と折竹は笑うような表情をして、
「あまり、偉そうに見られたのが、とんだ災難でしたよ。いや、デモクラシーも当てにはならん」
「お気の毒です。しかし、これが任務ですから」
 とセルカークが心持頭をさげ、彼にペル・メルをすすめた。その莨煙《けむり》のなかで暫くのあいだ、折竹はじっと考えていたが、
「やれやれ、おなじ事なら探検で死んだほうがいい。僕は『大塩沙漠《ダシュト・イ・カヴィル》』地下の油層をさぐるわけだったのです」
 と、セルカークの頭がヒョイと上って、
「油層」
 と、彼は惹かれたような表情になった。
「そうです。あなたの想像は不幸にして違っているが、僕のほうのはおそらく図星でしょう。それは、東は外蒙からサハラ沙漠まで延びているといわれる、地下の大想像洞、『大盲谷《グレート・ブラインド・ヴァレー》』。ギリシアのホーマーでさえが晦冥国《キンメリア》といっていた、大盲谷が実際にあるらしいの
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