服という以外にも、不義の徒に対する烈々たる敵愾心《てきがいしん》。まず、彼らの策動を空に終らせることが、この際クルトへのなによりの手向《たむ》けだろう。と、いよいよ「冥路の国」探検ということになった。
 がその間、彼はおのぶサンの来訪を頻繁にうけていた。
「ちょいと、あたし……また来たわよ」といった具合で、まい日のようにやって来る。折竹も、三度に一度はうるさそうな顔をするが、こういう時も、
「お邪魔はしないわよ。あたしに関《かま》わず、お仕事をやって」と言う。そして何時までも、折竹の向う側にかけていて、雑誌などを見ながらもちょいちょいと彼をみる、その目付きは唯事《ただごと》ではない。折竹も、このごろでは慄《ぞ》っとなっている。
 また来たわよ、ご迷惑ねえ──と、言われるときのあの気持といったら、悪女、醜女《しこめ》も典型的なおのぶサン。三十六貫の深情かと思うと、胃のなかのものがゲエッと出てくるような感じ。
 それに、ここになお一層悪いことは、今度おのぶサンも探検隊について「冥路の国」へゆくということになっている。それは、鯨狼《アー・ペラー》の給仕者という役。ではなぜ、鯨狼が探検に必要な
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