作者として、勝負の成行きを詳述するのは避けるが、ついに、カムポスの勝利動かぬという局面になった。手札が二枚、ハートの一に、ダイヤの十。これは誰しも、ダイヤの十で切ってハートの一を残す。人々は、緊張が去ってざわめきはじめ、やれやれ、気紛《きまぐ》れにもせよ五十万ミルは高価《たか》いと、ようやく、方々で扇の音が高まってきた。
 「なるほど、こいつの一番違いの、易《うらな》いは当った。五十万ミルがそもそもの始めで、これから奴は鰻《うなぎ》のぼりになるか?![#「?!」は一文字、第3水準1−8−77、225−6] 代議士になり、将軍になり、大統領になり――。まだまだラテン・アメリカにはそんな余地があるからな」
 とカムポスの背後にいてこんなことを考えていた瞬後、アッと、折竹が思わず叫ぶようなことが、カムポスの指に起ってしまった。いわゆる手拍子が好勢にゆるんだのか、子供でさえ最後にとって置くハートの一を、彼がパッと場へ投げだしてしまったのである。逆転! あれよあれよと満座が騒ぐなかで、勝負は一瞬に決してしまった。
 カムポスが負け、ロイスが勝った。
 「どうも、変だ変だと思ってたんだが、惚
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