が挨拶《あいさつ》した。
「では、勝負の方法はなんに致しましょう。ですがこれは、三本勝負となるようなことは、あくまで避けねばなりません。一本勝負――それにご異存はないと思いますが」
「でも、こういう場所でやりますカードの遊び方を、私は、あまり知っていないのです」
その女性も、声が心持ちふるえ、上気した頬はまた別種の美しさ。言葉にも物腰にも深窓《しんそう》育ちが窺《うかが》われ、いまも躊躇《ためら》ったような初心初心《うぶうぶ》しい言いかたをする。まったくこんな、ナイトクラブあたりにはけっして見られぬような女性が、どうして途方もない大勝負をカムポスに挑むのだろう。また、一方カムポスもどうしてしまったのか、急に、それを境いに溌剌さが消えてしまった。目も、熱を帯びたようにどろんとなり、快活、豪放、皮肉の超凡《ちょうぼん》たるところが、どうした! カムポスと、喰らわしたくなるほど薄れている。
「では、“Escada de mao[#「mao」の「a」に長音記号]《エスカーダ・デ・モン》”はいかがで」
「梯子《エスカーダ・デ・モン》」とは、いわゆる相対《さし》の遊び方である。しかしそれ
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