sナブナテイヨ・ラハード》なる湖水あり、その湖上には、具諸衣宮殿《アムラバアムバラワティ》なる毘沙門天《ヴィシュラヴナ》の大宮殿。さらに、外輪山はこれ四峰あり、阿※[#「くちへん」に屯、151−18]曩※[#「くちへん」に屯、151−18]《アターナータ》、倶曩※[#「くちへん」に屯、151−18]《クナータ》、波里倶娑曩※[#「くちへん」に屯、151−18]《バラクシナータ》、曩拏波里迦《ナータブリカ》。そうしてそれぞれの峰には、発する彩光の色により、四とおりの別名あり。紅《くれない》にかがやくは、紅氷蓮《バードマ》の咲く花酔境《プシパマーダ》、白光を発するは、白氷蓮《クンダリカ》の咲く吉祥酔境《シリマーダ》などでござりまする。そこは、氷嶺とは申せ気候春のごとく、あらゆる富貴、快楽を毘沙門天《ヴィシュラヴナ》がお与えくださいます。私どもも、そこへ行き着きとうて修行いたしますなれど、まだ花酔境の裾をみたものもございませぬ」
 ユートピア、これこそ喇嘛《らま》の夢想楽土であるが、しかし孔雀王経中の四峰の彩光といい、すべてが現実そのままなのも奇怪だ。花酔境《プシパマーダ》とは、すなわち今い
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