ヨ、麦粉《ツアンバ》と※[#釐の里を牛にしたもの、151−7]牛《ヤク》のバタを焼く礼拝のにおいがするので、みると、いまいた高僧《ギクー》をはじめ大勢が祈っている。私が、あの峰をなぜ拝むのかと訊くと、その高僧がつぎのように語ってくれた。
「チベット蔵経の、正蔵秘密部《カンジュル・ギュイト》の主経に、孔雀王経と申すのがあります。そのなかに現われる毘沙門天《ヴィシュラヴナ》の楽土が、そもそもあのお峰でござりまする。ではそれが、孔雀王経にはなんと書かれてありましょう。それは、ヒマラヤを越え北へゆくこと数千里、そこに氷に鎖《とざ》される香酔《カンドハマーダ》なる群峰があり、その主峰をよんで阿羅迦槃陀《アラーカマンダ》といい、すなわちそれは、高原中の大都なる意でござりまする。おう、蓮芯中の宝玉よ、アーメン《オム・マニ・パードメ・フム》[#ルビは「おう、蓮芯中の宝玉よ、アーメン」にかかる]」
と、私は祝福され若干のお布施をとられた。これで、私の来世がはなはだ良いそうなのである。高僧は、なおも節のようなものをつけて、勿体《もったい》そうに語ってゆく。
「で、そこには、四大河の水源をなす九十九江源地
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