tの乾脂の燃える音が廊下を伝わってくる。ひょいと覗《のぞ》くと、ケティが平らな顔をニタリニタリとさせながら、向うのケルミッシュの部屋のなかへ入ってゆく。ダネックは、もの好き半分、扉のすきから覗《のぞ》きこんだ。
「なに、なんの用できたね」ケルミッシュが空咳《からぜき》をした。見るとなんだか、不味《まず》いものがいっぱい詰まったような顔だ。
「なんだといって……?![#「?!」は横一列] なんだか、あたいにも訳が分らないんだよ」
と言うと、すすっと寄ってきて舌っ足らずの声で、
「先生……マア起きていたんだね。あたいを、先生は待っていてくれたんじゃないのかね」
と、ケルミッシュが辟易するさまを、ダネックが笑いながら話したのである。あんな白痴を、ただ天母《ハーモ》語が読めるだけで連れてくるもんだから、ケルミッシュ君も、えらい目に逢うんだ。だいたい、無思慮、無成算でケルミッシュ君は駄目だ。やはり、これは俺の探検だねと、ダネックが鼻高々に言うのである。しかしそれは、ただ浅いとこしか見えぬ、人間の目にすぎない。翌朝から、すべてが白痴ケティを中心に廻転してゆくようになった。
朝まだき、とつぜん
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