V母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]」へわけいって源流を閉じるか、――その二者以外に遮断の方法はないと考えていた。なぜなら、水量が減れば激流となって、そこの舟行がたちまち杜絶するからである。
「くそっ、カーネギーの金庫を背負った学会がなんて醜態だ。二度や三度の、失敗で平張《へば》るなんて、外聞があるぞ。俺も、今度こそは往ってと思っていたのに……」
 ダネックがいった探検中止の報が真実とすれば、支那事変終止を早からしめる援蒋ルートの遮断も、魔境「天母生上の雲湖」征服もいっぺんに飛んでしまう。みすみす、機会を目のまえにしながら、なんて事だろう、焦《あせ》ればあせるほど眠れなくなって、その夜折竹はまんじりともしなかった。すると、それから三日後に、いよいよ探検中止確定をダネックがしらせにきた。
「これで俺も、いよいよハーヴァードの地学教室へもどるんだ。遠征五年、隊員十六名を失っただけで、なんの得るところもない。ねえ、『天母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]』は永劫《えいごう》の不侵地かね」
 ダネックも、さすがそ
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