B豺《ジャッカル》が咆《ほ》え、野豚《メンゴウ》が啼《な》く熱林のなか――。そこに、アメリカ地理学協会が建てた丸太小屋がならんでいて、いまダネックが胸毛をあおぎながら、木戸の最期のさまを折竹に話している。
「しかしだよ、木戸君の犠牲でやっと分かったのは、あの『天母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]』の主峰の雲の正体だ。あれは、おおきな気流の渦巻《うずまき》なんだ。海には、ノルーウェーの海岸にメールストレームの渦がある。メッシナ海峡にはカリブジスがあるね。しかしそういう、退潮と逆潮とでできる海流の渦のような気流は、残念なことにあの上空にはない。きっと僕は、主峰があるといわれるあの雲の下が、もの凄い大空洞ではないかと思うんだ。サア、陥没地、大梯状《だいていじょう》盆地というかね。それも、上空に渦をおこさせるほど、ものすごく深いもんだ」
「じゃそれを、木戸君が確めたのかね」
「いや、ただ最後の無電でそう推察できるんだ。機はいま、旋流にまきこまれ、主峰の雲へ近付いていく――それがまず最初のものだった。続いて、もう我らには旋流をのがれる手段はない。神よ、隊
前へ 次へ
全53ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング