V母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]』にはそういうものが残っているのではないか。第三紀ごろから出た原始人類も、やや進化した程度でそのままいるんじゃないか。とマア、こういうような想像もできるわけだね」
「うん、できるだろう。それで、その連中の史前文化のさまを唱《うた》ったのが、とりも直さず孔雀王経ではないかとなるね」
「そうだ、だが、いまのところは話だけにすぎんよ。ところで、ダネックは紅蓮峰《リム・ボー・チェ》の彩光をラジウムのせいだといっているね。なるほど、いちばん毛唐にピンとくるのは欲の話だからね。しかし僕は、どんな富源でも後廻しにしなきァならん」
「なぜだね」
「それはね。香港封鎖後の新援蒋ルートなんだ。インドシナから、雲南の昆明をとおってゆくやつは爆撃圏にある。彼らは、じつに不自由な思いをする夜間輸送しかできんのだ。ところが、事実は然らずというわけで、さかんにイギリス製の軍需品がはいってくる。これは、可怪《おか》しいというので僕へ指令がきた。イギリスの勢力圏であるチベットをとおって、重慶へ通ずる新ルートがあるのではないか?![#「?!」は
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