X《たた》えて、にんまりと座間をみている。おそらく全人類中のたった二人として、悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]の底を踏んだときの二人の目はあの、ペンも想像も絶するおどろくべき怪奇と、また、恋の墓場としてのうつくしい夢をみるだろう。カークは、言葉を絶ってしばらく考えていた。
 密林は、死んだような黄昏《たそがれ》の闇のなかを、ときどき王蛇《ボア》がとおるゴウッという響きがする。と、とつぜん、カークがポンと膝《ひざ》をうって言った。
「座間、名案があるぞ。僕にそんな莫迦気《ばかげ》たことを、いわないでもすむようになるぞ」
「えっ、なにがあるんだ?」
「それは、この蔦葛のうえを“Kintefwetefwe《キンテフェテフェ》”に利用するんだ」
「…………」
「つまり、コンゴの土語でいう『自然草の橋』という意味だ。ああ、これまでなぜ気がつかなかったんだろう」
 リビングストーンのマヌイエマ探検の部に、その“Kintefwetefwe《キンテフェテフェ》”のことがくわしく記されてある。
 ――マヌイエマ近傍では、川を覆うて生草の橋ができる場合がある。つまり、両岸から
前へ 次へ
全91ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング