轤ネかった。しかし三人は、その日一日は酔ったような気持でいた。前人未踏の、この東端まできて悪魔の尿溜をのぞいたのは、おそらく有史以来この三人だけかと思うと、自然の尊位と威力を踏みにじった気にもなるが、なによりここを出て人里に帰ることが、いまのところいちばんの問題になっている。
 といって、南へゆけばコンゴの「類人猿棲息地帯《ゴリラスツォーネ》」、そこではこの惨苦を繰りかえすにすぎない。してみると、北端にあたる大絶壁へ――いまアメリカ地学協会の探検があるはずだが……。
 と、協議がまとまって進むことになったが……、これまでどおり、巨草|荊棘《けいきょく》を切りひらいてゆくのではいく月かかるかも知れない。そのあいだ、この衰弱ではとうてい保つまいし、なによりこの二、三日来|王蛇《ボア》に狙われどおしである。
「ずいぶん、考えりゃ保つもんですわね」
 マヌエラが、ボロボロの斧をながめてふうっと吐息をし、なにやら、座間に言えというような目配せをした。すると、座間が胸の迫ったような声で、
「じつはカーク、いまマヌエラとも相談したことだがね。ここで、君一人に自由行動をとってもらいたいのだ」
「なぜだ
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