ェ小滝のようにながれてゆくのだった。
「ああ君?![#「?!」は一字]」
 カークはじぶんとともに冷静だった座間が、近づく死の刻に取乱してしまったのだと思った。しかし座間はすこしも腕をゆるめずに、まるで恋情のありったけを吐きだしてしまうように、泣いたり笑ったりもう手のつけようもない狂乱振りだった。が、座間は狂ったのではなかった。彼は、悦びと悲しみの大渦巻きのなかで、こんなことを絶《き》れ絶《ぎ》れに叫んでいた。
(“Latah《ラター》”だ。マヌエラにはマレー女の血がある“Latah《ラター》”は、マレー女特有の遺伝病、発作的神経病だ。ああ、いますべてが分ったぞ。あの夜の、ヤンとのあの狂態の因《もと》も……、いま、マヌエラの発作が偶然われわれを救ってくれることも……)
“Latah《ラター》”は、さいしょ軽微な発作が生理的異状期におこる。そのときは、じぶんがなにをしているかが明白《はっきり》と分っていながら、どうにも目のまえの人間の言葉を真似たくなり、またその人の動作をそのまま繰りかえす――つまり、反響言語《エヒョーラリー》、返響運動《エヒョーキネジー》というのがおこる。してみると、い
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