Rにも判別《みわけ》がつかなくなるだろう。それが、バイエルタールのは二十と数年――宣教師のでたらめをまことと信ずるのも無理はない。そのうえ、彼はインド大麻で頭脳を痺《しび》らせているのだ。
けれど今となっては、それがじぶんたちには狂人《きちがい》の刃物も同様。もう、どうあがこうにも……、彼の狂気の犠牲となるより他はなさそうに思われる。
防虫組織や飛行機などは、いかにも神秘境と背中合せの近代文明という感じだが、ナイルの閉塞、イタリア機の連絡とは、じつに華やかながら実体のない、狂人バイエルタールの極光《オーロラ》のような幻想だ。いやいま、この猿酒宮殿《シュシャア・パラスト》に倨然《きょぜん》といる彼は、そのじつ、悪魔のような牧師の舌上におどらされている、あわれなお人よしの痴愚者なんだと、座間だけはそう信じていたのである。
やがてドドをまじえた一行五人は小屋に押しこめられた。もっとも、番人もつけられず鍵もおろされない。武器も弾薬も依然として手にある。これはバイエルタールの手抜かりというわけではなく、四か所の石階《いしばし》に厳重な守りがあるからだ。
アフリカ奥地の夜、山地の冷気が絶望
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