逑V空低く爆音が聞えた。毎夕、悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]からくる昆虫群をふせぐために、石鹸石《ソープストーン》、その他の粉霧を上空から撒《ま》くのだという。それがマコンデからみえる「鳴る霧」の正体だったのだ。ドドが飛行機をみても驚かぬわけは、おそらくここの近くにいたために、機影を知っていたせいであろうと察せられた。
それから、その飛行機のことをバイエルタールに訊《たず》ねると……英領ケニアの守備隊で同僚を殺し、偵察機一台をさらってここへ逃げこんできた英人飛行士で、その後、縦断鉄道測量隊をヤンブレで襲い、当分防虫剤やガソリンには不自由しないと、バイエルタールは鼻高々の説明だった。
その間も彼の目は、寝ているドドの背に置かれたマヌエラの手のうえを、まるで甜《な》め廻すように這《は》いずっているのだが、どうやらそれも、ただの酔いのせいではなさそうに思われてきた。と突然、彼は割れるような哄笑《こうしょう》をはじめた。
「分ったろう、俺はナイルの閉塞者なんだ。はっはっはっはっは、君らは妙な顔をして、俺を島流しの狂人とでも思ってるだろうが、それもよかろう。し
前へ
次へ
全91ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング