ヘ六、七人になってしまった。みんな熱病にかかったり、毒蛇にやられてしまった。
 それで、とうとうここまで逃げのびると、さすがにイギリス軍もやってこなくなった。きっと、悪魔の尿溜ちかくで斃《や》られちまったと、奴らは考えたにちがいない。しかし俺たちは生きのびていた。まるで、ロビンソン・クルーソーのような生活をして、大戦がいつ終ったかも知らないし、おまけに子まで出来た。はッはッはッは、むろんお袋は土人の女だがね」
 こう言ってバイエルタールは、妙にぎらぎらする瞳でマヌエラを見|据《す》えた。魔烟《まえん》のために、大分|呂律《ろれつ》が怪しくなっているし、調子も、うきうきと薄気味悪いほどである。
「ところで、つい一昨年のこと、ここへマコンデから宣教師がふらふらと迷い込んできた。みるとドイツ人なんだ。話がはずんだ。大戦が終ったということもそのとき聴いたし、故国《くに》も変ってしまってナチスという、反共の天下になった事も初めて知った。だが、外地へゆく宣教師には特別の使命がある。スパイもやれば宣伝もやる。彼はそういう種類の男だったのだ。それで、ともかく部落は全滅したということにして、あることない
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