謔、にうつくしい。だが座間は、どうしてカークとこんなところへ来たのかじぶんでも分らなかった。
「どうしたい、いやに悄《しょ》んぼりして……。まさか、猫の死骸に念仏をいいにきたんじゃないだろうが」
カークは、いつもとちがって底気味悪さを湛《たた》えている座間を景気づけるように言った。すると、座間はいきなりふり向いて、
「おい、僕にドドを売っちゃくれまいか」
「えッ、ドドを売れって?![#「?!」は一字]」カークも少からず驚いて、
「なんのためだ。僕の手から買ってどうするつもりだ」
思わず見上げる座間の眉宇間《びうかん》には、サッと一閃の殺伐の気がかすめてゆく。殺してやる! マヌエラがあの魔性のものに魅込まれたのでなければ、ああも奇怪な二重人格をあらわすわけはない。と、知らず識らず、この入江の腐肉の気にさそわれてきた座間である。
カークは早くも、それを悟ったと見え改まったような調子で、
「じゃ、その話を真剣にとるがね。すると、まず、売る売らないに先だって、決めておきたいことがある。それは、ドドが獣か人間かということだ。売っていい動物か、売ってはならない人か……サア座間君どっちだろう」
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