オんせき》でも、これには驚くだろう。しかし、最初のうちは抵抗しただろうが」
「それがしないのです。じつに、ひどい苺果痘《フラムベジア》にかかっていたのです。僕は、なにより可愛想になってきて、さっそく皮膚に水銀|膏《こう》をなすってやると、大分落ちついてきました。もう以前のように幹へからだを擦《こす》ったり、泥を手につけて掻《か》きむしるようなことはしません。ただ、目をほそめて僕の手にある、水銀膏の罐《かん》をものほしそうにながめているのです。それで僕はこいつは物になると思って、その罐を囮《おとり》に手近かの部落まで、とうとうドドをなにもせずにひっ張ってきたのです」
「なるほど、さすがはジャングルの名人芸だね」
 思わずアッコルティ先生は感嘆の声を洩《も》らした。
「それから、ドドの苺果痘《フラムベジア》のほうは座間君の手ですっかり癒《なお》りました。ですから、僕と座間君にはむろんのこと、この研究所の出資者メンドーサ氏の令嬢、マヌエラさんにも非常に懐《なつ》いているんです」
 ちょうどそこへ、扉がわずかに開いて、うつくしい顔がのぞいた。今も今とて噂《うわさ》したマヌエラ嬢だった。彼女は、
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