fの底深さに怖れを感ずるのだった。
が、その折、法水は右手の壁に顎をしゃくって、検事に見よとばかりに促《うなが》した。そこは、ウルリーケの室《へや》に続く合いの扉《ドア》で、わずかに透いた隙間から、室内の模様が手にとるごとく見えた。壁には、脂《やに》っぽい魚油が灯されていて、その光が、枢《くるる》の上の艇長の写真に届いているのだが、その下で、ウルリーケがぼんやりと海を眺めている。
その前方には、防堤が黒いリボンのように見えて、その上に、星が一つまた一つとあらわれてくる。
しかし、検事はその遠景でなしに、なにを認めたのであろうか、思わず眼をみはって吐息を洩らした。
なぜなら彼は、夫の死にもかかわらず、華美《はで》な平服《ふだんぎ》に着換えた、ウルリーケを発見したからである。
「こりゃ驚いた――あの女は亭主が殺されるまでは、喪服を着ていて、死んでしまうと、今度は快走艇着《ヨットぎ》に着換えてしまった。明らかにウルリーケは、八住を卑下しているんだ。だが、どう考えても、犯人じゃないと思うね。自分の熱情の前には、何もかも忘れて、ただそれのみを、ひたむきに露出《むきだ》してしまうのだ。ねえ
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