ツをあげなかった――それも、すこぶる重大な疑問じゃないかと思うよ。僕は、そうしている君を見ると、じつにやりきれない気持になるのだがね。まして君は、夜な夜な海から上がって、防堤に来る男がある――と云う。もし、それが真実だったら、この朦朧とした結合《コンビネーション》には、永劫解ける望みがない」
「そうなんだ支倉君、まさに|時は過ぎたり《ディ・フリスト・イスト・ウム・エンデ》――さ。この事件の帰するところは、さしづめ、この一点以外にはないと思うよ」
 と薄闇の中から、法水が声を投げると、検事は慌《あわ》てて両手を握りしめた。そして、
「なに、|時は過ぎたり《ディ・フリスト・イスト・ウム・エンデ》――本気か法水君、君は捜査を中止しろと云うのか」
 と叫んだが、その時意外にも、法水はこらえ兼ねたように爆笑を上げた。
「ハハハハハ冗談じゃない。僕は、久し振りで陸へ上がった、ヴァン・シュトラーテンのことを云っているのだよ。幕が上がって幽霊船長が、七年ぶりでザントヴィーケの港に上陸するとき、はじめその中低音《バリトン》が、この歌を唱うんだ。つまり、僕が云うのはワグネルの歌劇さ――『|さまよえる和蘭人
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