「行くと云われるのだが、その身は生とも死ともつかず、永劫《えいごう》の呪縛にくくられている幽霊船長《ファンダーデッケン》と――きしみ合う二つの車輪、まさに幻想と現実とが、触れ合おうとする空怖ろしさ、またそれを縫ってシュテッヘの幻が、見もせぬに跳び上がり、沈み消えしては踊り乱れるのだった。
が、そうしてああでもないこうでもないと、もの狂わしい循環論の末には、いつか知性も良識も、跡方なく飛び散ってしまって、まったく他《はた》の眼から見たら、滑稽なほどの子供っぽさ、いたずらに神話の中を経めぐったり、あるいは形相《ぎょうそう》凄まじい、迷信の物の怪《け》に怯《おび》えたりなどして、検事はしだいに夢を換え、幻から幻に移り変って行くのだったが、やがて終いには、その深々とした神秘、伝奇めいた香気に酔いしどれてしまって、譫妄《たわごと》にも、殺人事件の犯人などどうでもよいと思われたほど、いまや彼の感覚は、まったく根こそぎ奪い尽され去ってしまった。
そのおり、黄昏《たそがれ》の薄映えは、いぜん波頭を彩っていたけれども、海霧《ガス》は暗さを増す一刻《ひととき》ごとに濃く、またその揺動が、暗礁を黒鍵《こ
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