黷トいたその男が、毎夜、裏庭の防堤にまで、来ていたのは御存知ないのですか」
 と八住家の玄関を跨《また》ぐと、法水は突如ウルリーケを驚かせたが、そう云いながらも彼は、背筋を氷のような戦慄《せんりつ》が走り過ぎたのを覚えたのであった。
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    第三編 偶像の黄昏《たそがれ》


      一、漂浪《さまよ》える「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」

 いったんは、ウルリーケも愕《ぎょ》っとしたように振りむいたが、しばらく日傘をつぼめかけたままじっと相手の顔をみつめていた。
 その顔は、また不思議なほどの無表情で、秘密っぽい、法水《のりみず》の言葉にも反響《こだま》一つ戻ってはこないのだ。やがて、自失から醒めたように、正確な調子で問いかえした。
「お言葉の意味が、はっきりとは判りませんけれど、私が怖ろしがっている男というのは、そりゃいったい誰のことなんですの。夜になると裏の防堤に来る――と、いまたしかにそうおっしゃいましたわね。では、その名を打ち明けて下さいましな――ああ誰なんでしょうね。またその男が、貴方《あなた》は、どこから来るとおっしゃるんですの」
「その名は、まだ不幸
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