ノはいますまい」
 最後の応酬がちょっと気色ばんで、険悪だっただけで、艇内におけるいっさいが事なく終ってしまった。
 艙蓋《ハッチ》の上には、すでに黄昏《たそがれ》近い沈んだ光が漂っていて、時刻は五時を過ぎていた。検事は、鉄梯子を先に上って行く、法水の背後から声をかけた。
「まったく、殉教的な精神でもなけりゃ、こんな事件にはめったに動けんと思うよ。なにしろ、ほんの極微《ちっ》ぽけな材料だけで、極大の容積を得ようというんだからね。
 第一、犯罪史にかつて類のなかった海底ときて、しかも、現場は三重の密室だ。それに兇器がそこから、風みたいに消え失せている――いや扉《ドア》の鍵孔にも、外側から覆いがあるんだからね、風でさえも抜けられんという始末だ。そして、僕らの眼前で、あの殺人鬼は創《きず》口に孔を明け、まんまと鼻をあかしているんだ。
 だから、だんだんに深入りしていくと、なにか旧《もと》の夢の中に戻ってゆくような気がするんだぜ」
 法水は、検事の手を取って引き上げてから、海気を胸いっぱいに吸い込んだ。そして、すこぶる激越な調子で云った。
「いやこの事件の解決は、つまるところ、一つの定数《コン
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