フみ彼を傷つけるを得ん。されば、われその手を懼《おそ》るるなり】
それから、三句ばかりの後にも、次の一つがあった。
Said she "Upon his vesture with a fine silken thread, I'll sew a secret crosslet.
【クリームヒルトは云う――。われ秘《ひそ》かに美《うるわ》しき絹糸もて、衣の上に十字を縫いおかん】
「いつかは判《わか》ることだろうが、この数章の中に、二個所だけ、紫鉛筆で傍線《アンダーライン》が引いてある―― Leaf《リーフ》(葉)と Crosslet《クロスレット》(十字形)の下にだ。だが、けっしてこれは今日このごろ記されたものではない。とにかく支倉君、この艇内日誌を調べてみることにしよう。そうしたら、あるいはこの傍線《アンダーライン》の意味が、判ってくるかもしれないからね」
と飽くことを知らない彼の探求心は、普通ならば誰しも看過《みのが》すかと思われるような、傍線《アンダーライン》の上に神経をとどめた。
そして、白いズック表紙の艇内日誌を開いたが、その時二人の眼にサッと駭《おどろ》きの色がか
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