っしゃるの。これでも、きょうの狩倉《かりくら》へいらっしゃいますの」
 しかし、妻の手を振り払って、ジーグフリードは猪狩《ししがり》に赴いたのである。
 その森には、清らかな泉があって、疲れたジーグフリードが咽喉をしめそうとしたとき、突如背後から、きらめく長槍が突きだされた。そうして、肩にのこる致命の一ヶ所を貫かれて、ジーグフリードは、あえなくハーゲンの手にこの世を去ったのであった。
 やがて、その屍体は、獲物とともにクリームヒルトのもとに届けられた。しかし彼女は、悲哀のうちにも眦《まなじり》きびしく、棺車の審判をもとめたのである。
 それは[#「それは」は太字]、加害者[#「加害者」は太字]|惨屍[#「惨屍」は太字]《むくろ》のかたわらに来るときは[#「のかたわらに来るときは」は太字]、傷破れて[#「傷破れて」は太字]、血を流すという[#「血を流すという」は太字]……。
 はたしてそれが、ハーゲン・トロンエであった。クリームヒルトは、それをみて心に頷《うなず》くところあり、ひそかに復讐の機を待って、十三年の歳月を過した。ウオルムスの城内に、鬱々と籠居して、爪をとぎ、復讐の機を狙うクリ
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