》狩がはじまった。
 しかしクリームヒルトは、その朝、前夜の夢を夫に物語ったのであった。
「わたくし昨夜《ゆうべ》は、恐ろしい夢を二つほど見ましたの。まだ、こんなに、破れるような動悸《どうき》がして……。わたくし貴方を、狩猟にやるのが心許《こころもと》なくなってきましたわ」
 と、夫にとり縋って、諫《いさ》めたが聴かれなかった。そこで、いよいよ心許なく、クリームヒルトは喘《あえ》ぎ喘ぎ云うのであった。
「では、お聴かせいたしますけど……。はじめのは、あなたが二匹の猪にさいなまれていて、みるみる、野の草のうえに血が滴ってゆくのでした」
「そんなこと、なんでもないじゃないか。いいから、次のをお話し……」
「その次は、暁まえの醒め際に見たのですけど、
 あなたが[#「あなたが」は太字]、谷間をお歩きになっていらっしゃると[#「谷間をお歩きになっていらっしゃると」は太字]、突然二つの山が[#「突然二つの山が」は太字]、あなたのお[#「あなたのお」は太字]|頭[#「頭」は太字]《つむり》のうえに落ちてくるのです[#「のうえに落ちてくるのです」は太字]。
 あなた、それでも、これが悪夢ではないとお
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