ームヒルト……。
そうして、「ニーベルンゲン譚詩《リード》」は下巻へと移るのである。
[#ここで字下げ終わり]
しかし、悲壮残忍をきわめたこの大史詩の大団円を、映画に楽劇に、知られる読者諸君もけっして少なくはないであろう。
十三年間、一刻も変らずに、ジーグフリードにむけ、ひたむきに注がれるクリームヒルトの愛は、いかに人倫にそむき、兄弟を殲滅《せんめつ》し尽すとはいえ、その不滅の愛――ただ復讐一途に生きる、残忍な皇后とばかりはいえないのである。
その故人を慕って、いまなお尽きぬ苦恋の炎が、この一篇を流れつらぬく大伝奇の琴線なのである。
十八年の昔、トリエステにおこった出来事と、ジーグフリードの死……。また、ジーグフリードの致命個所とは……さらに、それをハーゲンに告げた、衣のうえの十字形とは……。そうしてまた、二人の女性のいずれが、ウルリーケにあたるか。すなわち、故人を慕っていまなお止まぬクリームヒルトか、それとも、|隠れ衣《タルンカッペ》に欺かれたブルンヒルデが、それか……。
作者は、かく時代をへだてた二つの物語をつらね、その寓喩と変転の線上で、海底の惨劇を終局まで綴りつ
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