恋に憧れる身となり、はるばるウオルムスの城に赴いたのである。しかし、その門出に、悪しき予占ありといって止められたのであったが、思えばそれは、やがて起る悲劇の兆しだったのであろう。
 さてジーグフリードは、ウオルムスの城内のおいていたく歓迎され、ことに武芸を闘わして、クリームヒルトの嘆賞するところとなった。しかし姫は、それから一年もジーグフリードとは遇わず、ただ居室の高窓から微笑を送るのみであった。
 と、そのうち、姫とジーグフリードを結びつける機会がきた。それはグンテル王が、ひそかに想いを焦がすブルンヒルデ女王であって、ブルンヒルデは、アイゼンシュタイン河を隔てた洋上に砦《とりで》をきずき、われに勝る勇士あれば、嫁《かし》づかんと宣言していたのである。
 すなわち、ブルンヒルデ女王こそは、北方精神の権化ともいう、鬼神的女王なのであった。
 だからこそ、グンテル王は自分の力量を知って、それまで女王に近づこうとはしなかったのである。しかし、いまは吾れにジーグフリードあり。王は奇策を胸に秘めて、アイゼンシュタインの城へ赴いた。
 そこで、ジーグフリードは、かねてニーベルンゲン族から奪ったとこ
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