も十日たっても、何日《いつ》になっても開こうとはしないのです。
そうして、私の病いも、それと同時に薄皮を剥がすように癒ってゆきました。
ところが、はじめて床を出た今朝、ふと気がついてみますと、この花が私の枕辺から消えているのです。それが叔父さま、いつのまにか『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』に来ていて、このとおりパッと開いているのではございませんか」
その不思議なアマリリスが、赤い舌のような花瓣をダラリと垂らしているところは、何かもの云いたげであった。
そして、そのいいしれぬ神秘と詩味は、蒼味の強い童話本の挿画《さしえ》のようであったが、今朝の惨劇に時を同じくして起ったこの奇蹟には、なにか類似というよりも、底ひそかに通っている整数があるのではないかと思われた。
法水は、次々と現われてくる謎に混乱してしまったが、まもなく一同を去らしめて、この室の調査を開始した。
そして、最初にまず、艇長の遺品《かたみ》二点を取り上げた。
二、ニーベルンゲン譚詩《リード》
作者はここで、艇内にあらわれた「ニーベルンゲン譚詩《リード》」について語らねばならない。
といって、この独
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