見比べていたが、
「なんだか知りませんが、僕にこの花のことを聴かせていただけませんか」
「それは叔父さま、こうなのですわ」
と朝枝は、法水の顔にちらついている、妙に急迫した表情も感ぜず語りはじめた。
「私は一月ほど前から、得体の知れない病いに罹《かか》りました。熱もなくただ瘠せ衰えてゆきまして、絶えずうつらうつらとしているのです。
あとで聴きますと、医者は憂鬱病《メランコリア》の初期だとか何かの腺病だとか云ったそうですが、どんなに浴びるほど薬を嚥《の》んでも、私の身体からは日増しに力が失せてゆくのでした。そうして、だんだんと指の間が離れてゆくのが、朝夕目立ってゆくうちに、このアマリリスの蕾《つぼみ》が、ふっくらと膨《ふくら》んでまいりました。
私はそれを見て、果敢《はか》ない望みをこの花にかけてみたのです。もし私が癒るようなら、蕾《つぼみ》をそれまで鎖ざしておいて下さいまし――と。
ほんとうを云えば、力を出そうとして、血の気が上ったようなこの花の生々《いきいき》しさに、私、妬《ねた》みを感じたのでしたわ、ところが叔父さま、まあ不思議な事には、今にも開きそうなこの蕾が、五日たって
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