ところが、入ってくるウルリーケを見ると、長い睫毛《まつげ》の下がキラリと光った。
彼女は母に、とげとげしい言葉を吐いたのである。
「お母さん、貴女《あなた》はこのアマリリスを、どうしてここへ持っていらっしゃったのです。ああ判《わか》った。貴女は私を殺そうとお考えになっているのでしょう。
だってこの花のことは、ようく御存知のはずなんですもの……私をまた床に就かせようとしたって……ああ、きっと、そうにちがいありませんわ」
朝枝のヒステリックな態度には、何かひたむきな神々しいような怖ろしさがあって、それには何より、法水が面喰らってしまった。
すると、瞬間ウルリーケの顔には狼狽《ろうばい》したようなものが現われたが、彼女は動ぜず、静かに云い返した。
「まあ朝枝さん、私が持って来たのですって、……いったい貴女は、何を云うのです? お母さんは、貴女を癒《なお》してくれたこの花に、感謝こそすれ、なんで粗略に扱うものですか。
サア家へ帰って、すぐ床にお入りなさい……貴女はまだ、本当ではないのですよ」
その思いもよらぬ奇異《ふしぎ》な場面にぶつかって、しばらく法水は、花と朝枝の顔を等分に
前へ
次へ
全147ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング