六を前に、堂々と描き去った者がなけりゃならんわけだろう。
ところが、この奥の室には、先刻《さっき》から朝枝という娘がいるそうだけど、こんな静かな中で、盲人の聴覚が把手《ノッブ》の捻《ひね》り一つ聴きのがすものじゃない。それにあの娘は、今朝この『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』には、乗り込んでいなかったのだ。
そこで支倉君、この結論を云えばだ――絶対に盲人のなし得るところではないということ。それから、一人の妖精じみた存在が、どうやら明瞭《はっきり》しかけてきたという事なんだ」
それから法水は、ウルリーケを手招いて、当時四人が占めていた位置を訴《ただ》した。
すると、一々椅子を据えてウルリーケは右端から指摘していった。
「ここが、石割さんでございました。それからヴィデさん、次が主人、そして最後が、犬射というのが順序なのです。
ところが、先ほども申しましたように、犬射さんは立ち上がってうろうろしていたのです、だが、ヴィデさんだけは泰然と構えておりました。
また石割さんときたら、それは滑稽にもまた惨《みじ》めな形で、肩をぴくんと張った厳《いか》つさに似合わず、両膝を床について、ぶるぶる
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