顫《ふる》えていたのでしたわ」
[#四人の位置関係を示す図(fig43656_01.png)入る]
ウルリーケが再び片隅に去ると、法水はしばらく額の皺を狭めて考えていたが、やがて、検事をニコリともせず見て、別の事を云いだした。
「ねえ支倉君、できることなら、見当ちがいの努力をせんように、おたがいが注意しようじゃないか。
何より怖ろしいのは、僕らの方で心気症的《ヒポコンデリック》な壁……それを心理的に築き上げてしまうことなんだよ。現にこの卍《まんじ》の形がそうなんだが、いつぞやの黒死館で、クリヴォフの死体の上に何があったと思うね。
あの時、それが手の形をして、壇上の右手を指差していた。なるほど、それには犯人の伸子《のぶこ》がいたにはちがいないが、しかし理論的に、なんといって証明するものではない。
こんなつまらん小細工に引っかかって、心の法則というやつを作られては堪《たま》らんからね」
けれども、その卍の形は、絶えず嘲《あざけ》るかのごとくびくびく蠢《うごめ》いていて、舷側で波が砕け散るときには薄紅く透いて見え、また、その泡が消え去るまでの間は、四つの手が、薄気味悪く蠕動《ぜんど
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