−94−6]《こめかみ》には、痛ましい憔悴の跡が粘着《ねば》りついていて、着衣にも労苦の皺《しわ》がたたまれ、風がその一団を吹き過ぎると、唇に追放者《エミグレ》らしい悲痛なはためきが残るのだった。
また、盲人の一群は、七人の向う側に立ち並んでいて、そのぎごちない身体つきは、神秘と荒廃の群像のように見えた。
もはや眼以外の部分も、生理的に光をうけつけなくなったものか、弱った盲目蛆《めくらうじ》のように肩と肩を擦《す》り合わせ、艶《つや》の褪《あ》せた白い手を互いに重ねて、絶えず力のない咳をしつづけていた。
しかし、この奇異《ふしぎ》な一団を見れば、誰しも、一場の陰惨な劇《ドラマ》を、頭の中でまとめあげるのであろう。
あの黒眼鏡を一つ一つに外していったなら、あるいはその中には、天地間の孤独をあきらめきった、白い凝乳のような眼があるかもしれないが、おそらくは、眼底が窺《うかが》えるほどに膿潰《のうかい》し去ったものか、もしくは蝦蟇《ひきがえる》のような、底に一片の執念を潜めたものもあるのではないかと思われた。
が、いずれにもせよ、盲人の一団からは、故《ゆえ》しらぬ好奇心が唆《そそ》
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