》の上に横たわっている真黒な人影が見えた。
が、次の瞬間、ウルリーケはハッと立ち竦《すく》んでしまったのである。
そこには、彼女の夫八住衡吉が三人の盲人の間に打ち倒れていて、ほとばしり出る真紅の流れの糸を、縞鯛がもの奇《めず》らしげに追うているではないか。
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第二編 三重の密室《みっしつ》
一、アマリリスの奇蹟
「助《たす》からんね支倉《はぜくら》君、たぶん海精《シレエヌ》の魅惑かも知らんが、こりゃまったく耐《たま》らない事件だぜ。だって、考えて見給え。海、装甲、扉《ドア》――と、こりゃ三重の密室だ」
法水《のりみず》麟太郎《りんたろう》と支倉検事が「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」を訪れたのは、かれこれ午《ひる》を廻って二時に近かったが、陽盛りのその頃は、漁具の鹹気《しおけ》がぷんぷん匂ってきて、巌《いわ》は錆色に照りつけられていた。
ウルリーケとともに艙蓋《ハッチ》を下りるまでにはだいたいの聴取は終っていたが、何より海底という、あり得べくもない自然の舞台と謎の味が、彼をまったく困惑させてしまった。
のみならず、それはかつていかなる事件
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