]の群が、軍兵のような行列を作ったり、鯖が玉蟲色に輝いたりなどして、それが前方に薄れ消えるときに彼らは星を降り撒《ま》き、あるいは甘鯛《あまだい》が、えごのり[#「えごのり」に傍点]の捲毛に戯れたりして、ときおり海草の葉がゆらめく陰影《かげり》の下には、大|蝦《えび》のみごとな装甲などが見られるのであるが、その夢の蠱惑《こわく》は、しだいに水深が重なるとともに薄らいでいった。
 もはや三十|米《メートル》近くになると、軟体動物の滑らかな皮膚が、何かの膀胱のように見えたり、海草は紫ばんだ脱腸を垂らし、緑の水苔で美しく装われている暗礁も、まるで、象皮腫か、皺ばんだ瘰癧《るいれき》のように思われるのであるが、そうして色がしだいに淡く、視野がようやく闇に鎖《とざ》されようとしたとき、ふと異様な物音を、ウルリーケは隣室に聴いたのである。
 と、すぐさま、合いの扉《ドア》を叩く犬射の声がした。
 が、生憎《あいにく》とそれは、機関の響きで妨げられたけれど、絶えずその物音は狂喚と入れ交じって、隣室からひっきりなしに響いてくるのだ。
 やがて、鎖《とざ》された扉が開かれると、その隙間から、硝子《ガラス
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