みなぎ》っていた。
 それは、蒼味を帯びた透明な深さであるが、水面に蜒《うね》りが立つと、たぶんさまざまな屈折が影響するのであろうか、その光明には奇異《ふしぎ》な変化が起ってゆくのだった。
 一度は金色《こんじき》の飛沫《しぶき》が、室《へや》いっぱいに飛び散ったかと思うと、次の瞬間、それが濃緑の深みに落ち、その中に蜒《うね》りの影が陽炎《かげろう》のようにのたくって、その燦《きら》びやかさ美しさといったら、まず何にたとえようもないのである。
 けれども、その――三稜鏡《プリズム》の函《はこ》に入ったような光明の乱舞が、四人の盲人には、いっこう感知できないのも道理であるが、いつかの日艇長と死生を共にしたこの室《へや》の想い出は、塗料の匂いその他になにかと繰り出されて、それにシュテッヘ大尉の事件を耳にした今となっては、あの不思議な力の蠢動《しゅんどう》がしみじみと感ぜられ、はては襲いかかってくる恐怖を、どう制しようもなかったのであった。
 そして、それがつのりきった結果であろうか、四人の集めた額が離れると、八住は手さぐりに入口の壁際に行って、そこにある食器棚から、一つの鍵を取り出してきた
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