た。
それは水上|噸《トン》数約四百噸ばかりの沿岸艇で、橙《オレンジ》色に染め変えられた美しい船体は、なにか彩色でもした烏賊《いか》の甲のように見えたが、潜望鏡と司令塔以外のものはいっさい取り払われて、船首に近い三|吋《インチ》大仰角速射砲の跡には、小さな艙蓋《ハッチ》が一つ作られていた。
しかし、そこは断崖の下で、そこへ行くには、岩を切り割った、二つの路を迂廻して行かねばならないのだが、朝枝と外人たちはそこで別れて、いよいよウルリーケと四人の盲人が「鷹の城」に乗り込むことになった。
海底遊覧船「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」――。しかも、前途にあたって隠密の手があるのも知らず、ふたたび彼らは、回想を新たにしようと濃緑の海底深くに沈んで行くのだった。
司令塔の艙蓋《ハッチ》から鉄梯子を下りると、そこには、クルップ式の潜望鏡と潜水操舵器があって、右手が機関室、左手は二つの区画に分れていて、手前のは、以前士官室だった底を硝子《ガラス》張りにした観覧室、またその奥は前《さき》の発射管室で、そこに艇長の遺品が並べられてあった。
しかし前方の観覧室には、とうていこの世ならぬ異様な光が漲《
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