墓は、東経一六〇度二分北緯五十二度六分――そこに、いまも眠りつづけているのです。
そうして、ハプスブルグ家の王系は、彼の死とともに絶えたのですが、それを再び、栄光のうちに蘇《よみがえ》らせようとしても何事もなし得ず、今や戦史と系譜の覇者は、二つながらに埋もれゆこうとしているのです」
老人の悲痛な言葉が最後で追憶が終り、夫人は海に花環を投げた。
そして、一同は打ち連れ立って、岬を陸の方に歩みはじめたのであるが、艇長フォン・エッセンの死に対する疑惑は、いまやまったく錯綜たるものに化してしまった。
一同は、奇怪な恐怖に駆られて、夢の中をさ迷い歩くような惑乱を感じていたのである。わけても、その得体の知れない蠢動《しゅんどう》のようなものは、四人の盲人に、はっきりと認められた。
その四人は、一人として口を開くものがなく、互いに取り合った手が微かに顫《ふる》え、なにか感動の極限に達しているのではないかと思われた。彼らは明らかに、これから乗り込もうとする「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」に恐怖を感じているのだ。
ところが、当の「鷹の城」は、その時岩壁を縫い、岬の尻の入江の中で、静かに揺れてい
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