に傍点]、四時間ほど経つか経たぬかの間にあろうことか[#「四時間ほど経つか経たぬかの間にあろうことか」に傍点]、艇長の死体が烟のように消え失せてしまったのです[#「艇長の死体が烟のように消え失せてしまったのです」に傍点]。
もちろん蘇生して閉鎖扉を開けて機関室に入ったとすれば、吾々もともどもクローリン瓦斯《ガス》で斃《たお》れねばなりませんし……たとえ発射管から脱出するにしても、肝心の圧搾空気で操作するものが吾々無能の、四人をさておいて外に誰がありましょう。
また、夜中の脱出は凍死の危険があり、すこぶる無謀であるのは自明の理であるし、現にその救命具も引揚げ後調べると、数が員数どおり揃っていたのです。
ですから私たちは、ただただ怖ろしい現実に唖然となって、ことにああしたおりでも何かしら、悪夢のような不思議な力に握り竦《すく》められている気がいたしてなりませんでした。
ああ艇長の死体を艇から引き出したのは、かねて伝説に聴く海魔《ボレアス》の仕業《しわざ》でしょうか、それともまた、文字どおりの奇蹟だったのでしょうか。
いずれにしても、艇長の死と死体の消失が厳然たる事実であることは、
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